ピンポンダッシュした小学生を捕まえて精神鑑定をしても動機が解明できないのと同じように、成瀬優がふと「最近ふたなりに興味がある」と口走ったのも別に深い理由は無く、『気まぐれ』あるいは『気の迷い』くらいで、本人としては『ゴキブリの色は黒なのか茶なのか』と同じくらいどうでもよい、すぐに忘れてしまうとりとめのない話をしていたつもりだった。
一方、黒木智子(フタナリ)の受け止めは正反対だった。四六時中妄想を膨らませ性的な目で見ている相手から、よりにもよって自分の部屋でそんなことを言われ、宇宙の外まで飛んでいきそうなほど舞い上がってしまった。
例えるなら外国産ゴキブリ飼育が密かな趣味の昆虫オタクが、学年一の美少女からゴキブリについて質問してもらえたようなもので、それはもう得意げに飼育法から苦労話に至るまで聞かれていない事柄を一人でべらべらまくしたててから、嬉々として虫かごを取り出し蓋を開けようとするのだ。

「え〜、やだな、そんなに興味ある〜?困っちゃうなあ〜、でもゆうちゃんなら特別に見せてあげようかなあ〜?」
『フタナリ』の単語は智子の脳内で即座に『チンコ』へ猥語変換され、『ゆうちゃんがエロい気分になって私のちんこを見たがっている』という架空の物語が一瞬にして完成した。智子は「でもゆうちゃんなら――」のくだりを言う段階でパンツの中に手を入れ(皮を剥きつつ)、「見せてあげようかな」と言い終えた時点で既にちんこの露出が完了していた。
《あれ?ゆうちゃんすごい動揺してる?普通こんなに驚くか?思ったほどビッチじゃないのか?》
いきなり目の前に生臭い汚物(黒ずんだ毛まみれの仮性包茎)を差し出された女子高生の正常な反応を、智子は勝手に都合よく解釈し勢いづいた。
「へへへ、どうかな、私のちんこ。まあまあデカイと思うんだけど」
そんな誇らしげに言われても、優はどんな顔をすれば良いのか分からなかった。どう見ても粗チンだし、でもフル勃起してガマン汁まで垂れてるし。
《やべえ、ゆうちゃんが私のちんこガン見してる!そんなにすごいのか私?!》
《ビッチを一瞬で虜にするとか、私のちんこエグいな!》
いよいよ智子の勘違いは沸騰した。
「ねえねえ、ゆうちゃん、こすり付け枕オナニーって知ってる?見たことないでしょ?」
「フタナリはみんなやるんだよ。見たい?見せてあげよっか?」
優からすれば『うんこするとこ見せてあげるよ』とほぼ同じ迷惑な申し出に、「いや、それはちょっと…」と断る合間すら与えず、智子はベッドの上で全裸になりオナニーの実演を開始した。
「枕を二つに折って押さえつけてさあ、女の尻の代わりに使うわけよ」
「ほら、枕の間にちんこが入ってくとこ、見える?」
「あ、この角度にしたほうが見えるかな?これでどう?よく見える?」
「ゆうちゃん見て?ちんこがめっちゃ激しく出入りしてるとこ、見て?」
「ねえ、どうよ、私の腰振りテク?ゆうちゃんどう思う?けっこうすごくない?」
「私の腰振りプロ並だよね?超高速でしょ?素人女だったら十秒でマジイキするよね?」
蹲踞の姿勢で枕を相手に腰をスコスコ振る姿があまりに惨めで気の毒なのと、しきりに話しかけられるから何か返事をしなくてはという焦りが重なり、優はとりあえず思いつく智子に喜んでもらえそうな台詞を言わなければと思った。
「う、うん、そうだね、もこっちかっこいいよ、カクカク腰振りすごくかっこいいよ」
国民的美少女レベルの可愛い声で(それが彼女の地声なわけだが)言った後、優は自分の台詞の面白さに耐えられず「ぶー!」と吹き出した。
智子がきょとんとなって見ると、彼女は口を押さえぷるぷる震えていた。
「笑った、ゆうちゃん?」
「笑ってない…笑ってない…」
「それ完全に笑ってるじゃん」
「違う…咳しただけ…」
「いや、咳って…ゆうちゃん鼻水が…っていうか鼻くそ出ちゃってるよ…」
「ええ?!やだ私?!ごめん、もこっちティッシュもらうね…!」
「うん…どうぞ…」
「取れた?取れてる?ちゃんと取れた?」
「うん、大丈夫だけど…」
「良かった、じゃあ…えーっと…あ、そうそう続き…もこっち、続きをしてよ、ね?」
「いや…今さらそんな言われても…鼻くそ見て萎えちゃったから…無理なんだけど…」
「そ、そっか…そうだよね…ごめん…」
優は赤面した。智子もしょんぼりして服を着込み、正座した。
「どうして笑ったの…私、ゆうちゃんのためにやったのに…」
「え?そうだったの?」
「そうだよ」
「でも私は、どうして急にもこっちがああなっちゃったのか、ぜんぜん分からなかったよ?」
「え?そうだったの?」
「そうだよ」
二人は首をかしげ顔を見合わせた。
「そうか…そうだったか…」
智子は沈黙した。

数分前まで、今日が童貞卒業日になるのではないか、そのままの流れでゆうちゃんを嫁にできるのではないか、アナル舐め手コキをさせたりパイズリ顔射したり精液を飲ませたり食ザーさせたりハメ撮り中出しができるのではないかとけっこう本気で期待したのだが。
《まあでも…ゆうちゃんの鼻くそは…あれはあれで超レアなものが見られて悪くないか…ふふふ…》
黙ったまま智子はニヤニヤしはじめた。

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