『ちょっと、はじめ…!』
『…うんにゃ?』
『今日のひふみ先輩、どう思う…?』
『へ…?』
『なんや最近、めっちゃ色っぽいと思わへん…?』
『さ、さあ…?』
『……』
『その残念そうな目は何…!』
『あんたに聞いたうちがアホやったわ…』
『うわ、ひどっ…?!』
『ええわ、もう忘れといて…』
『ふんだ、いいよいいよー…』

――ゆんとはじめのヒソヒソ声が聞こえて、青葉は左手を口に当て「クフッ」と笑った。

偶然通りかかったりんは、

(あらあら、昨日見たテレビでも思い出したのかしら?青葉ちゃんは本当に可愛いわね〜)

となごんだが、実際の状況はずいぶん異なっていた。

――最近ひふみがエロい理由。

それはフタナリの青葉だけが知っていた。

何しろひふみの処女を奪った犯人が、他ならぬ青葉なのだ。

いやそれどころか既に何回も何十回も、あのホクロ入りの美巨乳を揉みしだき、
白くて大きな桃尻にペニスを突き刺し、
削岩機のように激しく出し入れさせて、ひふみをイカせまくっていた。

それは色気も出るというものだ。

けれどもひふみ本人は、自分の存在に自信を持った試しがないのと同様、
自分がすっかりエロく仕上がっていることにも一向に無自覚であった。

それがまたひふみの良いところである。

頑張って声を張ろうとかえって第一声が頓狂になったり、
自分から話しかけておきながら会話がすぐに途絶えて気まずそうに沈黙したり、
持病のコミュニケーション障害克服への道のりはまだまだ遠い一方で、
フタナリの青葉から手ほどきされた性の快楽にはすぐに順応し、
キスは言うまでもなく、対面座位から騎乗位での腰振り、
はたまたパイズリフェラに至るまで習得済みで、
自宅ソファーの下にはダース単位で買い込んだコンドームが隠してあるのだ。

その落差からくる破壊力ときたら、百戦錬磨のフタナリ小悪魔で
女との恋愛など鼻をほじるのと同じくらい経験豊富でヤリまくりだった青葉ですら改心するほどで、
現在では結婚を前提とし至って真面目にひふみと交際していた。

もともと仲が良いと思われている二人であったから、
“職場恋愛”は何て事もなく順調に進んでいた。

時々ひふみが張り切ってお弁当を作ってくることもあったが、
これまで通り一人でモソモソ食べる日もあり、
適度に知らんぷりを装う青葉との距離感はいつも自然で、誰からも怪しまれなかった。

かくして仕事終りに二人は一緒に食事をし、
それからひふみの部屋に寄るのが定番になっていた。

『今日、ひふみ先輩のお家におじゃましてもいいですか?』

いつものように夕方頃、青葉はメッセを送ってみた。

『うん』

ひふみらしからぬ顔文字なしの短い返信がすぐに戻ってきた。

青葉はモニタに映る自分の顔が思わずニヤけているのに気付き、
「コホン」と咳をして仕事を再開した。

作業はすこぶるはかどった。

幸い残業もなく仕事を定時で切り上げた二人は堂々と揃って退社し、
道すがら適当なお店を見つけて夕食にした。

初めの頃のひふみは食べ物の匂いを気にして
(なにせ一時間後くらいには全裸で抱き合いナメクジのようにキスをする)
いつも注文に悩んだが、毎回肉やら魚やら平然とパクパク食べる青葉を前に次第に慣れてゆき、
現在では遠慮せず何でも好きなものを食べるようになった。

今日の青葉は好物のハンバーグを注文し、ひふみも揃って同じものを食べた。

食事中の青葉は他愛もない事柄を身振りも交えて実に楽しげに語り、
ひふみは終始頷いたり、首を傾げたり、少し目を見開いたり、微笑んだりした。

食事を終えて店を出てからは特に会話もせず、
時折青葉が隣のひふみを見上げると、なぜか彼女は既にこちらを見ていて、
青葉はその都度ニコッと笑って視線を前に戻したり、そんなことをしながらひふみの家へ向かった。

「こんばんわぁ、ドブネズミの宗左衛門君〜」

部屋に到着すると、青葉は毎回律儀にひふみの“同居人”に対して挨拶をするのであるが――

「ち、違うよ、ハリネズミの宗次郎だよっ…」

――なぜかこうして毎回ひふみに訂正される事態となってしまう。

「あ、ごめんなさい、また間違えちゃいました」

確か前回は『ハツカネズミの宗介君』でその前は『ハダカデバネズミの宗一郎君』と呼んでいた。

「青葉ちゃんいつも間違える…」

ひふみは困り顔で言いながら、飼育ケージにそっと布を被せて覆った。

いかにもひふみらしいその行動は、青葉の天然由来のSッ気をたまらなく刺激した。

「どうしていつも隠すんですか…?」

とぼけた感じで顔を下から覗き込まれ、ひふみが言葉に詰まる。

「だ、だって…」

――宗次郎にセックスを見られるのが恥ずかしいから。他の理由などあるはずがない。

「…フフフ、ひふみ先輩、可愛い」

答えられずに固まってしまったひふみを青葉は正面から抱きしめた。

「か、可愛いのは、青葉ちゃんのほうだよ…」

顔を逸らしてひふみが言った。彼女は心底そう思っていた。

「そんなことありませんよ。ひふみ先輩はすごく可愛いです」

青葉は自信たっぷりに否定してみせた。

「ひふみ先輩の可愛さは、誰よりも私が一番知っています。それに、本当はすごくエッチなことも、私だけが――」

顔を近づけながらそう囁いて、青葉はひふみにキスをした。

さくらんぼ同士がくっ付くように、二人のプルンとした唇が触れ合った。

ひふみはゆっくり目を閉じ、青葉の背中に腕をまわした。

やがて二人の鼻息が荒くなり、舌を絡ませ唾液を吸い合う激しいキスになった。

それから先はいつもと同じ繰り返しだった。

腰を振る青葉は大して汗もかかずに平気そうな顔をして、
後背位やら側位やら正常位やらで、ひふみが飛んでいきそうな勢いでペニスを出し入れさせ、
ひふみは小一時間美乳をタプタプ揺らしながら可愛いあえぎ声を発した。

翌朝、当然のごとく前日よりさらに色気の増したひふみが普段通りに出社して大人しくしているところ、
鈍感さにかけては社内で右に出る者がいないコウがやってきて、挨拶ついでにひふみを構いはじめた。

「おはよう、ひふみーん。あれぇ、なんかいいことでもあったの?」

さすがのコウですら何かしら感じるほど今朝のひふみはエロかったらしい。

「…え?べ、別に…」

全く自覚の無いひふみはきょとんとなった。その仕草はもはや殺人的な可愛さだった。

「本当にぃ?でもなんかほっぺとかすっごいツヤツヤしてるじゃん?」

コウは遠慮なしにひふみの頬をつまんだ。スキンシップ過剰気味なのはいつものことである。

「や、やめてよコウちゃん、ひっはんはいふぇ…」

ひふみは割と真面目に抵抗してみせた。
このやり取りがきっと青葉のブースまで聞こえているのを意識しての反応だった。
けれどもコウはお構いなしに無邪気に笑ってなかなかやめなかった。

「ほれほれ〜、ひふみんのほっぺはぷにぷにだぞ〜」

(――ふぅ、やれやれ)

じゃれ合うコウとひふみの声を“小鳥のさえずり”のように優雅に聞き流しつつ、
青葉は朝のコーヒー(砂糖入り)を一口すすった。

向こうのほうでりんが、まるでこの世の終りを見てしまったように青ざめて
ワナワナ震えているのが横目でチラリと確認出来たものの、
青葉は一切見なかったことにしてまたコーヒーを一口すすった。

(はぁー、コーヒー甘くておいしいなぁー)

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