いくらピーマンが苦手だといってもアナフィラキシーを起こすアレルギー持ちでも無い限り『一万円あげるから食べて』と頼まれれば一つ丸かじりして平気な顔でいるくらい、合理的に行動できる大人なら当たり前で芸のうちにも入らない。

「だから仮にみゆきさんが本当は僕を嫌いだったとしても、現金百万を手渡しすれば必ずマンコは舐めさせてもらえる…!」

鉄郎は自信があった。
つまりこの場合の百万はみゆきと両想いでなかった稀なケースが発生した際の念のための保険であり、肝心の金さえ用意しておけばどのみち目的達成は確約されているのだ。いや別にアル美と両想いならそれは大歓迎だしむしろ内心ではめちゃくちゃエロいと思っているし実際毎日おかずに使っているわけだが、彼女の場合もし両想いが勘違いだった時に気を取り直して金を渡し改めて礼儀良くオファーをしても、死肉に湧いたウジ虫を見るような目で睨んできて脳が陥没するまでレンチで殴られそうなのでやめておくことにした。なにせあのコミュニケーション能力の欠如ぶりからして現金の全く通用しないお子様アスペでほぼ間違いない。

――そんな訳でみゆきのマンコがめちゃくちゃ舐めたいわけだが、残念ながら手元に百万がないし、これから先もその額は用意できそうにないし、そもそも女性に告白する勇気を持ち合わせていないロボットオタクなので、鉄郎は致し方なくマイク付き超小型カメラを事務机の下に設置した。

スカートという薄い布地で簡単に破けるもろい構造物は原理的にその中身が一定方向に対し常に露出し外部から観測可能な状態にあり、エロいパンツが見えたり見えなかったりするのは観測者の肉眼あるいはその代理に用いる光学機器との位置関係が作り出す任意の角度の差に過ぎない。すなわちみゆきがスカートをわざわざ着用している時点でそれはもはや『パンツを見て(撮影して)欲しい』という明確な積極的意思表示と見なすべきであり、見えて当然のものを見えたまま記録するのは定点カメラで富士山の気象観測をするのと同じことだ。

そんな経緯から動機としてはやや消極的に(クワガタがいいけどカナブンで我慢しておくか的な)妥協策として漫然と『とにかくスカートの中が映っていればいいや』くらいに設置した盗撮カメラであったが、高性能ピンホールレンズで記録された映像のクオリティはやる気のなかった鉄郎を驚愕させた。

「す、すげえ!!みゆきさんて毎日こんなだったわけ?!」

動物カメラマンに例えるなら山小屋に住み込みギリースーツを着て重い撮影機材と共に毎日ポイントまで向かい、ひたすら観察を続けた末の丸3年目にようやく遭遇できる決定的瞬間レベルのショットが、初日でいきなりフルコンプリートだった。
バラック同然の事務所の中でみゆきにはまるで警戒心が無く、椅子に座っている間じゅう必ず股を開いた完全ノーガードスタイルで、パンスト越しの『はみ毛』から『染みパン』に『食い込みクリ浮き』まで全てが鮮明に撮影できていた。

「なんなのみゆきさん?!これ絶対わざとでしょ?!誘ってるでしょ?!そんなにオレのこと好きなの?!」

“死にそうなくらい”と表現される興奮を鉄郎は初めて経験した。もう死ぬほど興奮した。翌朝とんでもない睡眠不足で出勤したが「あ、おはよう沖野くん」と可愛い声でみゆきが挨拶してくれたらそのまま24時間眠らずに働けそうな気がした。(実際は定時にすぐ退社した)

「(カメラが足りぬ……)」

追加調達したカメラは事務机を見下ろす俯瞰の位置に取り付けた。既に私物PCの背景画像はキャプチャしたみゆきのハミ毛にしてあるので、それをバックにあくびをしたり鼻をほじる彼女の映像が再生できたらいよいよ死ぬる気がした。

「え……なにこれどゆこと……みゆきさんの恋人がアル美さんだったてこと……?」

しかし増設したカメラには意表を突く光景が記録されていた。翌日メモリを回収し再生したところ、確かに期待通り待望の『鼻ほじ』やら『あくび』やら『くしゃみ』やら『歯に付いた煎餅を気にして口に指を入れる』やら数々の油断しきった萌えな仕草が撮れていたのだが、一番最後に一番とんでもないものが映っていた。

『アヘ顔』と『無修正まんこ』。すなわち要約するとみゆきはアル美とヤッていた。事務机に乗って股を広げ、アル美にクリトリスを指でネリネリこねられながらマンコをネロネロ舐めまわされていた。

「そこ事務所だぞ……事務所でやるか普通……」

人間、有り得ない夢が叶うとかえって心穏やかな境地に至るもので、鉄郎も同じく猫背でPC画面に見入りながら冷静にツッコミを入れた。しかし己がアル美の立場であったならどうか。逆に事務所だからヤりたくなるのではないか。それは確かに否定できない。こんなに可愛い彼女が職場で一緒ならそれはもう空き時間が5秒あればキスするし1分あれば手マンで潮吹きさせるし5分もあったら立ちバックの鬼ピストンで10回くらいイカせるだろう。よって同性のアル美の場合、夕方たまたま事務所に一人きりで酢昆布を食べつつパソコンに向かうみゆきを見つけたらこの行動に至るのは必然か。

「いやいやでもこれは絶対にばっちいって…」
「け、毛が…毛が思った以上にかなりすごいし…マンカスも…」
「こんなん完全に罰ゲームですることじゃん…逆に金もらっても無理だわ…」
「アル美さんすげえ舐めてるけど平気なんか…普段は逆に舐めさす立場だからか…」
「オレのチンコのほうが1000倍清潔とか…ちょっとがっかりだよみゆきさん…」
「でも声と顔はほんとに可愛いよなあ…やっぱ金貰えたらオレも少しくらい舐めてあげようかなあ…」
「ちゅうかアル美さんクンニ長えよ…抜きどころが分からんわ…」
「アナルも舐めなきゃみゆきさんがイケないでしょうが…!」(『子供がまだ食ってる途中でしょうが!』のセリフと同じ口調)
「うお、マジで舐めた…しかも指入れまで…き、汚ねえぇぇ…」

鉄郎の想像を超えて二人は既にすごい関係に仕上がっていた。もちろん死ぬほど興奮した。翌日あまりの寝不足でブルバスターの運転中に気絶しかけた。

あの男だらけの職場で田島は言うに及ばず片岡にすら、生々しい意味での《雄》として張り合えない現実は嫌なくらい自覚していた。ましてや一流大卒の鉛にふたり揃っておもちゃ代わりのセフレにでもされてしまったら、会社を通り越し人生のほうを辞めたくなっていたに違いない。
だからみゆきとアル美が初めから手の届かない存在で、両想いも勘違いの幻想で、例え百万払おうが食品用ラップ越しのキスは当然、化学防護手袋を着用した手コキさえ頼めないことが証明されたわけであっても、鉄郎はある部分でホッとしていた。そして眠かった。

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